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非上場株式の評価で総則6項の適用で国が敗訴(裁判事例を解説)

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M&A市場の拡大で、オーナー会社の株式が高値で売買されることが常識になってきました。相続税法上の評価額との格差が大きくなり、ある納税者が、相続で引き継いだ株式について、相続税財産評価基本通達に従い評価して申告したところ、その後の税務調査で、実際にその株式は10倍以上の価格で売却されているから、その実際売買価格をベースに申告するように指摘を受けました。

その後、東京地裁で裁判が行われ、税務署の指摘はすべて取り消されました。令和4年4月19日の最高裁判決(不動産の事案)以降、初めて総則6項について判断した判決でしたが、裁判で税務署による総則6項の適用が否定された初めてのケースとみられています。

その後国は控訴しましたが、東京高裁も令和6年8月28日に国の控訴を棄却し、納税者勝訴が維持されました。

総則6項とは

財産評価基本通達6項は、通達どおりに評価すると著しく不適当な場合、国税庁長官の指示を受けて別の方法で評価できるとする規定です。令和4年の最高裁判決は、通達評価額と時価に大きな差があるだけでは足りず、通達どおりの画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反するといえる「特段の事情」が必要だとしました。

事案の概要

時期

主な出来事

2014年5月29日

被相続人が、自らが代表取締役を務めるX社の株式をY社に売却する方向で基本合意。全株をまとめて1株約10万5千円で譲渡する予定とした

2014年6月11日

被相続人が死亡。X社の取締役会で妻Cが代表取締役となり、売却手続きを引き継ぐ

2014年7月8日

遺産分割協議でA・B(子)とCが株式を取得。A・Bは自分の株をCに1株約10万5千円で譲渡

2014年7月14日

CがX社の全株式をY社に1株約10万5千円で譲渡

2015年2月27日

相続人らが、類似業種比準価額で1株約8千円と評価して相続税を申告

 

X社は大会社に該当するため、相続人らは通達に基づき類似業種比準価額で評価しました。これに対し国は総則6項を適用し、別の株価算定に基づく1株約8万円で更正処分等を行いました。争点は、この株式を総則6項で評価することが許されるかどうかです。

売却予定・実際の売却価格

相続人の申告額(通達評価)

国の評価額(総則6項)

1株 約10万5千円

1株 約8千円

1株 約8万円

 

裁判所の判断

① 金額の差だけでは不公平といえない

最高裁判決に従い、通達評価額と国の算定額に大きな開きがあることだけで、通達による評価が租税負担の公平に反するとはいえないとしました。そのうえで、本件に「特段の事情」があるかを検討しています。

② 租税回避目的の売却ではない

最高裁判決は、租税回避行為をした納税者が不当な利益を得ている点を問題にしたものと読めると指摘しました。本件では、被相続人や相続人が相続税を逃れる目的で株式を売却したとは認められないと判断しています。

③ 相続財産を高値で現金化すること自体は不当ではない

相続財産の一部を売って現金化することは珍しくなく、通達評価額より高く売れたとしても、その売却や交渉自体は不当でも不公平でもないとしました。多額の借入れで不動産を買うなど、評価額の差を利用した回避行為がない限り、他の納税者と比べて看過できない不均衡があるとはいえないと判断しています。

④ 相続前の売却合意も「特段の事情」に当たらない

相続開始前から売却交渉が進み、予定価格で基本合意していた事情があっても、それだけで特段の事情とはいえないとしました。相続後に合意どおりの価格で売れ、その価格が通達評価額を大きく上回っていたとしても、直ちに納税者が不当な利益を得たとは評価できないとしています。

⑤ 結論

被相続人が相続前に行ったのは基本合意などにとどまり、相続税を軽くする効果を持つ行為ではありませんでした。特段の事情はなく、総則6項を適用した更正処分等は、平等原則の観点から違法とされました。株式は通達評価額(1株約8千円)で評価すべきとの結論です。

「特段の事情」に当たり得る例

判決は、総則6項を納税者に不利に適用するには、納税者側に一定の事情が必要だとし、次のような例を挙げています。

  • 生前に売却の合意が実質的にまとまり、手続きを完了できたのに、相続税を避ける目的で合理的な理由なく売却を相続後まで遅らせた場合
  • 売却時期を、あえて被相続人の死亡後に設定していた場合
  • 最高裁判決の事案のように、多額の借入れと不動産購入など、相続税を大きく減らす積極的な行為を相続前にしていた場合

実務上のポイント

  • 評価額と売却価格に大きな差があっても、それだけで総則6項が適用されるわけではありません。カギは、相続税を減らすための積極的な行為があったかどうかです。
  • 一方、M&Aが進行中に相続が発生するケースでは、売却時期の決め方や経緯によっては「特段の事情」と判断されるおそれがあります。交渉の経緯や時期を決めた理由を記録に残しておくことが重要です。

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